就活コラム

面接の基本を守らない面接官

面接の基本を守らない面接官

学生が面接をこなしていくと、かなり高い確率で毒を持つ面接担当者と会い、とても嫌な気持ちになる。発言が思慮とコンプライアンスに欠け、学生を傷つけるのだ。

 確かに問題のある学生は多いかもしれない。だから面接担当者は、「できの悪い学生に欠点を教えてあげているのだ」と正当化するだろう。しかし、初対面で感じた欠点を口にして若い学生を傷つける行為は正当化できるのか? それが面接担当者の仕事なのか?

 実は人事以外の部署に担当を依頼することは多く、面接の教育を受けていない者が学生に接するケースも多い。だから学生は、「無礼かつ非礼な人物を面接担当に起用する企業がある」ことを念頭に面接に臨んだほうがいい。

 HR総研が楽天みん就と共同で2021年6月に行った「2022年卒学生の就職活動動向調査」から、問題のある面接担当者をタイプ別に紹介してみたい。

 

「面接の基本」を守らない

 今回の調査データは、「説明会や面接を通じて、企業の社員や人事に言ってほしくなかった言葉」に対するコメントだが、読んでみると面接の基本が守られていないことがわかる。

 面接の基本とは厚生労働省の定める「公正な採用選考の基本」だ。採用選考に当たっては、「応募者の基本的人権を尊重すること」、「応募者の適性・能力に基づいて行うこと」を基本とし、公正な採用選考を行うために「応募者に広く門戸を開くこと」、「応募者の適性・能力に基づいて行うこと」を定めている。

 規定は細かく、就職差別につながるとして選考時には13事項が禁じられている。本籍や出生地に関すること、家族に関すること(職業や続柄、病歴、地位、学歴、収入、資産など)、住宅状況や生活環境に関することはもちろんのこと、さらに宗教や支持政党、人生観・生活信条に関すること、尊敬する人物、思想に関すること、愛読書や購読新聞、さらには身元調査(現住所の略図もNG)や健康診断もその中に入っている。

 ところが、この指針を守っていない企業はかなり多い。新卒採用では、人物が重視され、そのために家族(親の職業など)や尊敬する人物、座右の銘、愛読書を聞き、人柄を計ろうとするからだ。これらの質問は定番中の定番だったので、当たり前のように思っているし、講習を受けていなければ禁止されている質問事項だと知らない面接担当者がいてもおかしくない。

 しかし、大人が知らなくても学生は知っている。

 「銀行系の企業で家族構成や家族の仕事や勤務地について質問された。厚生労働省からはそう言った質問は禁止されているはずなのに」(文系・その他私立大)

 「家族の職や家族構成を聞かれて幻滅した。コンプライアンスを意識してほしい」(文系・上位私立大)

 留学生採用が増えているが、質問には配慮が必要だ。面接担当者は「好きですか」「住みやすいですか」という質問で場を和ませようとしているのかもしれない。しかし、学生は「個人的な質問」と嫌がっている。

 「日本は好きですか、韓国より住みやすいですかなど、仕事に関係ない個人的な質問は聞かれたくない」(理系・早慶大クラス)


時代錯誤な女性差別発言

 今回学生が「言ってほしくなかった=不快」とする発言で目立って多いのは、女性差別だ。面接担当者としては悪意を持っていないつもりだし、もしかすると善意での発言と思っているのかもしれないが、時代錯誤だ。

 女性差別は男女雇用機会均等法で禁じられている。合理的な理由がない場合に、身長・体重・体力を採用要件にすることを禁じ、募集・採用や昇進、職種変更において転居を伴う転勤に応じることを要件にすることも禁じられている。

 これらの項目に具体的に違反するケースは少ないが、女性の役割を固定的に考える発言はとても多い。「大丈夫?」「女性の方は」「女の子」という用語そのものが差別的意識をあらわしている。

 「某テレビ局で『この部署は、女社員は少ないけど大丈夫?』と、女性社員に言われたことがショックだった。(ストレス耐性を見られていたとは思うのですが)」(文系・上位私立大)

 「プライバシーに関わることでデリカシーのない質問。結婚願望や最近の女性は〇〇のようなもの」(文系・上位国公立大)

 「育休についての説明で『女性の方は気になると思うのですが』という発言で、育児は女性だけと考えているように聞こえた」(文系・中堅私立大)

 「男性の多い業界で『あなたは女の子だからねぇ』と言われたこと。『女の子だから緊張しちゃうかもねぇ』とも言われた。性別関係ない」(理系・上位国公立大)

 ミソジニーという言葉を使う学生もいる。ミソジニー(misogyny)は、女性に対する嫌悪や蔑視を指す用語だ。「男性を元気づけてあげて楽しませる」もあるが、ネオン街と勘違いしているように思う。「愛されて気に入られる存在でなければならない」も女性を規範的に捉えており、時代錯誤を通り越して気持ちが悪い。

 「『女性が男性を元気づけて楽しませてあげて』というミソジニーな言葉。『お酒とタバコに抵抗はないか、飲み会を盛り上げられるか』という時代錯誤な質問」(文系・早慶大クラス)

 「女性が活躍するためには、愛されて気に入られる存在でなければならないと言われた。志望度が高かったが、一気に止めようと思った」(文系・上位私立大)

 「女性の働き方」「女性なのに」「女性だから」も差別的な意識が透けて見える。

 「女性なのになぜ総合職を受けているのか何度も面接で聞かれたときは、なぜ、女性が総合職を志望することに疑問を持たれるのか理解できなかった」(文系・早慶大クラス)

 「男性と話す機会が多い仕事ですけど、男性の多い環境に抵抗はないですか? という質問は不愉快だった。男女差についてあえて言う必要はないと感じた」(文系・その他国公立大)

 

上から目線で否定してくる

 面接では立場の強弱がある。片方は応募学生、片方は採否を決める面接担当者。そして、どの社会にも弱い相手に対し高圧的に接する人間はいる。そんな発言を紹介する。

 「他社の悪口。学生を見下すような言葉。あくまで自分らが正しいと言い張るような言葉」(理系・早慶大クラス)

 「履歴書を提出したのにもかかわらず、名前をずっと間違って呼ばれ続けたこと」(理系・早慶大クラス)

 「自分をひたすらに否定するような内容。『志望動機は不要』『自己アピールは不要』『あなたとは働きたくない』など」(文系・旧帝大クラス)

 「模範回答のような回答ですね」(文系・中堅私立大)

 「私がガクチカ(学生時代に力を入れたこと)を伝えた後に、『自分は〇〇ということを学生時代にやっていたから、君のはすごいと感じられなかったな』と言われた」(文系・上位私立大)

 「馬鹿なんですね。勉強してこなかったんだね。飽き性で勉強嫌いって認識しているんだね(そのようなことを伝えた記憶はない)」(文系・その他私立大)

 ひどい発言の数々だ。とくに最後の「馬鹿なんですね」はとんでもない発言だ。落とすと決めているから全否定する言葉を投げつけているのだろうし、学生にも非礼があったのかもしれない。しかし、学生のコメントを読むと、社会人としての礼儀を学んでいないのは面接担当者のほうのように見える。

 嫌味な発言で学生の意欲を低下させる一方で、空手形を切る面接担当者もいる。「ぜひ」「一緒に」「働きたい」と強い熱意を示して面接を終える。当たり前だが、学生は面接通過を信じて期待し待つ。他社への就活は控えるかもしれない。そして裏切られる。

 悪意はないのかもしれない。その面接担当者は「採用」と判断したのかもしれない。だが、複数で1人の志望者の採否を検討し、全員がOKとなることはむしろ少ない。また、もっと評価が高い学生が現れたのかもしれない。いずれにしても学生にとって原因はどうでもよく、「落とされた」という結果だけが残る。学生にとってつらい経験だ。

 「落ちたとわかるような態度」(文系・旧帝大クラス)に不満を漏らす学生もいるが、期待させるより罪は軽いと思う。

 「ぜひ一緒に働きたいですという言葉。結果は不合格だった。変に期待させることを言わないでほしい」(文系・中堅私立大)

 「二次面接で、次の面接を期待させるような言動をされたことです。あまりに具体的だったので次を期待しましたが、結局不合格となり精神的に辛かったです」(文系・上位私立大)

 「ぜひ一緒に頑張りましょう。と言われたのに落とされた」(文系・早慶大クラス)

 「そこでぜひ活躍してほしいと言って落とされた」(理系・旧帝大クラス)

 

言葉遣いが幼稚で汚い

 数は少ないが、言葉遣いの汚い面接担当者もいる。社会人なのに「人事の一人称が俺だったこと」(文系・上位私立大)という。「めっちゃ、ガチで」(理系・上位私立大)は子どもの形容句だ。

 相槌は会話の潤滑油だが、アクセントやタイミングによっては相手を否定する表現になってしまう。以下の面接担当者は学生を小馬鹿にしている。

 「家族構成への質問で嘲笑、『あ、そう』」(文系・上位国公立大)

 「『ふ~ん』という相槌は言ってほしくなかった。こちら側は緊張していて一生懸命話しているのに軽くあしらうのは失礼ではないかと感じた」(文系・その他私立大)

 「はぁ~、疲れた」(文系・旧帝大クラス)

 今回は面接で「言ってほしくなかった」、つまり「言われた」言葉を紹介した。言葉遣いや礼儀の粗い面接担当者はいつの時代にもいるものだ。

 気になったのは意識の乖離が目立つことだ。女性の扱いに関する発言。女子学生をひどく刺激し、傷つけていると気づいていない。むしろ女子学生の疑問に正直に話しているのだろう。そして、正直であればあるほど反発は大きくなる。

 これまでも女性蔑視的な企業文化に対する不満や反発はあったが、今回のアンケートを読むとかなり印象が異なっている。日本社会の後進性と学生の意識の落差が目立つ。

 企業が言葉で糊塗しようとしてももう通じない。学生は見抜いており、どのように自社の文化を説明するかは大きな採用課題になると思う。